八戸市・吉田屋 駅弁集団食中毒事件の検証
2023年9月16日に起きた青森県八戸市の駅弁製造販売会社「吉田屋」の駅弁の集団食中毒は、市保健所が10月16日に「推定」の原因を明らかにしました。下痢やおう吐などの体調不良を訴えたのは、1日当たりの製造数が1万8000個にのぼり、これまでに静岡県の122名を筆頭に29の都道府県であわせて521人が食中毒と確認されています。
症状を訴えた人の便や未開封の弁当から、黄色ブドウ球菌とセレウス菌が検出されたため、事件後1ケ月たってやっと「吉田屋」の食中毒と断定しました。それくらい謎の多い混沌とした事件でした。
黄色ブドウ球菌は、食品従事者の手や指に2~5%、鼻の穴付近に10~30%、糞便の20%に見られるほか、冷蔵庫やレンジの取っ手など生活環境に広く存在します。だから作業の途中で顔やスマートフォンを触ったら、再度手指消毒をすることも忘れないようにしなければなりません。むしろ作業に必要なもの以外は持ち込まないルールが必要です。
またセレウス菌は豆類や野菜に付着する土壌菌では熱に強い芽胞を形成し、加熱調理をしても芽胞が生き残り、食中毒を起こす菌です。
■ 原因はなにか? 推定するしかない事態に
保健所によると、委託業者から仕入れたごはんについてはいつもより高い温度で受け入れを行い、温度管理が不適切だったため施設内で冷却するまでの間に細菌が増殖した可能性があるとしたほか、仕入れたごはんの箱にアルコールで拭き取る作業をしていないなど衛生管理も徹底されていなかったなど「推定される主な原因」は、5点に及びました。
② 県外の外注業者から高温のまま米飯を受け入れ、米飯冷却までの間に菌が増殖
② 外注の米飯が配送された外箱(発砲スチロール製)から米飯や具材に菌が付着
③ マニュアルにない米飯の冷却や移し替えの際に手指消毒等が適切に行われず、菌が付着
④ 臨時従業員に対して、通常の衛生的な取り扱いや健康管理が徹底されず菌が付着
⑤ 回収の連絡が届かず、16日製造分の一部が販売
具体的には、委託した米飯が、注文時の指示より高い温度で搬入されたにもかかわらず受け入れ、冷却までに菌が増殖した可能性がある。事前の指示書では茶飯27度、酢飯28度で納品予定だったが、14日は、搬入から3時間後の時点で45度と15度以上も上回っていた。翌日も搬入時点で約10度上回っていたが、自社で冷却し、弁当に使用した。
配送で使った発泡の外箱を、吉田屋が殺菌せずに盛り付け室に搬入したため、米飯や具材に菌が付着した可能性もあるとしている。
この米飯と自社炊飯分の冷却を同時に行った際の製造記録や、臨時従業員に対する健康状態の確認についての記録を残しておらず、手指の消毒や手袋の交換が適切に行われなかったり、衛生管理が徹底されていなかったりした可能性があるといいます。
■ もう少し調べてみました
今回、吉田屋が外部に委託したご飯は15日で700㎏以上。炊飯の委託業者は岩手県内から青森まで発泡スチロールの箱に袋を入れて、袋の中に10㎏ずつ車で100キロ以上の道のりを冷蔵車ではなく、エアコンをかけて走り、運んでいたといいます。
吉田屋は、30℃以下での運搬を依頼していました。
普通の弁当工場ではご飯を炊いたら真空冷却器(プラストチラー)で冷却してすぐ盛り付けます。私の知っている東京のお弁当屋さんは最大で日産4万食の弁当を製造できますが、自社の炊飯工場を持って対応しています。
今回、炊飯から盛り付けるまでの保管温度が高く、時間も長すぎることが、問題につながった可能性もあるのではないかと指摘されています。
吉田屋は最大製造数が2万食とアピールしていますが今回のように18000食で処理能力を超えているのですから、同じように仕入れたご飯を使っていた経験があるはずです。
そのときに、例えば糸を引くとか、異臭がするというクレームを受けていた可能性があります。そのクレームが来たときに、外から仕入れたご飯が危ないというのは、その時に気づいて受注を受けないなどの対策を講じられたはずです。(重大な災害や事故には至らないものの、直結してもおかしくない一歩手前の状態のヒヤリハットがあり、改善できたはずです)
ご飯が糸を引くのは、空中に浮遊する腐敗菌が原因です。(仲間には納豆菌がいます。)
菌が繁殖するのは温度と時間のかけ算です。700㎏炊きあがるまで炊飯業者には炊く時間がある、トラックの時間がある、盛り付ける時間がある。炊いたご飯をすぐ冷却して、すぐに盛り付ける。それで消費期限ギリギリまで持たせる。
これが基本ですから、普通の大きな弁当工場では、ご飯を外部から仕入れるというのが日常あり得ないはずです。
委託業者の保健所への説明では「出荷の段階で普段、県内に出荷する時の設定である42℃から49℃になっていた」
岩手県によると、この委託業者は14日と15日の昼頃から米を炊き始め、それぞれ午後6時前後に出荷していたが、14日に出荷した際は「冷蔵車ではなくエアコンをつけた車で運搬していた」とも説明したといいます。
一方、発注よりも高い温度の米を受け取った吉田屋は、「炊かれた米が納品された際に温度測定を怠った」
吉田屋側が米の温度が高いと気づいたのは、米を弁当箱に詰める直前だった。その後、自社の冷却装置で冷ましたといいます。
保健所の調査では、米を炊いた委託業者の施設内や、サンプルとして保管されていた米からは菌やウイルスが検出されていないということです。それならば危険はなかったのか?
このうち14日の納入分について吉田屋は盛り付けをしようとした際「通常より熱かった」ため真空冷却機で冷却を実施したと保健所の聞き取りに答えたということです。14日に納入されたものは冷却前の米の中心温度は45℃で、30℃まで冷却したとしています。
しかし30℃では高すぎて危険温度帯(10度~60度)の中に入ります。細菌が増殖する危険温度帯をいかに短い期間で通過させるかが、もっとも重要です。
* TT管理(温度と時間の管理)
細菌が増殖するには、①栄養・②温度・③水分の3つの条件が必要であり、これらの条件がそろうと、時間の経過とともに爆発的に増殖します。
時間 : 細菌は1つの菌が2つに分裂することで増殖します。この1回の分裂に必要とされる時間(世代時間)は20分程度。つまり2→4→8→16と増殖し、6時間後には約26万に(10万ケUPで食中毒の可能性)
温度 : 多くの細菌が増殖するのは10~60℃で、なかでも36℃前後でもっとも活発に発育します。夏、クーラーをかけていない時の室温が、ちょうどこの危険温度帯に該当します。
■ 原因を私なりに推測
では、何からと考えれば、吉田屋の使った海鮮ではないでしょうか。報道によると問題があったのは、海鮮が生でご飯の上に乗っている弁当ばかりです。もちろん酢〆はしてあったかと思いますが、海鮮に少しの黄色ブドウ球菌がいて、温かい米飯の上に乗せたために、菌が好むちょうどよい温度(危険温度帯・10度~60度)になって増殖し、食中毒を引き起こしたのではないか。冷却能力は自工場の炊飯能力に合わせている可能性が高く、納品米飯が冷えていないことに気づいても再冷却する能力も時間的余裕も無かったのでは無いか。
食中毒予防の原則である温度管理を逸脱することの恐ろしさの典型例のように考えられないでしょうか。
■ 5商社を通じて1都1道1府30県に流通も問題か
本来、弁当という「傷みやすい調理された食事」を全国展開するのなら、各地に製造拠点をつくるのが当然です。吉田屋も一時関東に拠点を作ったのですが、人手と管理の問題があり三年で撤退しています。しかしそれをしないでローカルブランドとして勝負するのなら「品質管理」がキープできるエリアに限定するのは、食品を扱う者としては常識でしょう。
・崎陽軒の「シウマイ弁当」(出典:崎陽軒)
分かりやすいのは「横浜名物」として知られる「崎陽軒」のシウマイ弁当です。この有名ブランド弁当の製造拠点は、横浜工場と東京工場があります。では、ここで製造した弁当をどこで売っているのかというと、神奈川県、東京都、千葉県、埼玉県、静岡県だけ。全国に販売しないのは「ここでしか買えない」点をアピールしているからです。
通信販売で冷凍した弁当やシウマイなどは売ってはいますが、「つくりたての弁当」は品質管理が及ぶ関東から静岡までしかいかないのです。(カンブリア宮殿で詳しく放送されました。)
八戸で製造した「つくりたて弁当」を、遠く離れた関西や中国、九州まで輸送して売っていた吉田屋。 なぜそんなことをしてしまったのかというと、駅弁だからと考えられます。駅弁というローカル食材を用いた弁当をウリにしている以上、八戸でつくらないわけにはいかない。
一方で、吉田屋の駅弁は多くのコンテストで受賞しているので、ローカルマーケットだけではなく、全国展開も見込める。かくして、八戸で製造した弁当を、商社が全国に流通させるというかなりリスキーな「駅弁ビジネスモデル」ができあがったというわけです。
■ 消費期限のわな
しかもこの吉田屋弁当の消費期限は48時間の設定でした。保健所から常温で48時間の消費期限の根拠を出せ。と言われています。昔にはなかった保存料が発達したとはいえ、生の海鮮でこれは無理なのでは。
山の幸ばっかりの荻野屋の峠の釜めしでさえも消費期限は、6時間。
ほぼ全て火が入っているシウマイ弁当は、朝7時に売店で購入しても当日14時が期限。
生鮮で言えば大船軒さんの酢〆のアジの「伝承鯵の押寿し」が、当日中。
丸2日もつ生鮮の駅弁がなぜあるのかがわかりません。
勘と経験とまさかの度胸と顧客ニーズから生まれた消費期限設定なのでは。
地元の駅だけの売り上げではやっていけず、遠方での販売が経営上大きなウェイトを占めるようになったが故にこの事故が起きたのではないか。グルメ志向を目指す駅弁が、海鮮にもかかわらず消費期限が長く、スーパーの店頭に常温で置かれているのには疑問が残ります。
■ この結果の背景
このような結果に至った背景として、吉田屋が日常的に大量の弁当を製造していたこと、また、外部からの米飯の仕入れが日常的であったことなどが考えられます。
その際の経験や前例から、事前のリスク回避や対策が取られていなかったことが大きな問題です。また一連の衛生管理の不備やミス、そして外部とのコミュニケーション不足が原因となったと考えられます。
食品業界において、このような事態を防ぐためには、徹底した衛生管理と、それを支える体制の構築が必要で
